抗うつ薬の比較

 抗うつ薬は、いくつかのグループに分かれていますが、最近はSSRI,SNRIそれにNaSSAが主流になっていています。

 

【レクサプロ】

 ここではまずレクサプロについてです。これは選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIのひとつであり、デンマークで開発されました。SSRIのなかでは一番多く使われているものです。

 メリットとしては、1日1回1錠の内服で有効量に達します。他のSSRIは有効量に達するまえに1週間は少量で慣らしの期間を設けなければなりません。つまり1週間後に増量してようやく有効量に達します。レクサプロの場合にはこの増量の必要がありません。なぜかというとレクサプロは2週間くらいかけてゆっくりと血中濃度があがってくるからです。他のSSRIは3日か1週間くらいかけて血中濃度があがって定常状態になりますから、1週間後に増量が必要になります。このような点で考えますと、結局は同じようなことであり、レクサプロのメリットである1錠で有効量到達というのも、いわば、見かけ上のものであるということになります。レクサプロは自動的に増量してくれるとも考えることもできます。効果を発揮するまでの速さも、レクサプロが早いという説もありますが、ほぼ同等か若干レクサプロが早くても大差もなかろうと考えてもよいと思われます。抗うつ薬は増量しないといけないという心理的な負担をレクサプロは軽減するというメリットがあるということになります。

 それ以外のメリットはどうでしょうか。他の薬との相互作用が他のSSRIと比べて軽いという点で、安全性がよいです。SSRIのセルトラリンもその点まずまずですが、それ以上に良いのはレクサプロのメリットです。

 有効性については、かつてのSSRIの代表格の一つでもあったパロキセチンと比較しても同等でしょう。

 SSRIは不安や緊張を軽減する作用がすぐれていますが、このレクサプロもやはりその点で優れています。ですから、パニック障害、社会不安障害、強迫性障害、などの各種不安障害にも良好な効果があります。

 それでは、近年特に注目される点である意欲低下の改善はどうでしょうか。SNRIはノルアドレナリンの機能を向上させるので意欲低下の改善が望めるとされているのですが、それがゆえに、SNRIのサインバルタは世界で最もよく使われる抗うつ薬になっています。そしてSSRIは果たして意欲低下をどれくらい改善するのか、ということが課題にもなります。その点、サインバルタよりは劣るとも考えられるのですが、実はサインバルタはセロトニンの機能が弱くて不安緊張が改善しないので、レクサプロのほうがより自然な意欲の改善が期待できそうです。

 

【セルトラリン】

 これは日本では3番目に登場したSSRIです。日本では最大100mgまでですが、海外では最大150mgまで使えます。ということは、この薬は、比較的穏やかな効果であるという印象はドクターの間でもおおむね共通見解になっています。場合によっては女性に向く薬というイメージさえあります。とくに女性の過食傾向や過食症にも効果が期待できるというのは特徴の一つです。総合的に考えてもバランスの取れたSSRIともいえるでしょう。ただ、あまり強くないかわりに、すこし効果が薄いという印象もあります。穏やかな効果の割には実は意欲の改善効果もみられます。

 平成27年12月ごろからセルトラリンのジェネリックが各社から一斉に発売され、ずいぶんと値段が下がりました。SSRIは結構お高いものなので、このことは望ましいことかと思われます。SSRIでジェネリックが存在するのが、フルボキサミン、パロキセチンですが、この二つはそれなりに癖があって、セルトラリンのほうが使いやすいという印象があります。ただし、相性さえ良ければフルボキサミン、パロキセチンのほうが良いということもあります。

 

【サインバルタ】

 世界でも日本でも、最もよくつかわれている抗うつ薬です。これの特徴はSNRIであるがゆえに、Nつまりノルアドレナリンの機能低下を改善するという点です。これで意欲低下が改善すると言われています。でもこの内服薬で意欲低下が改善するかどうかは、ケースバイケースです。総じて良好な効果が出る抗うつ薬であるので、よく使われます。少量からでもノルアドレナリンの効果が出やすいという特徴もあります。そのため軽症のうつ病に少量のサインバルタで効果が期待できます。またサインバルタは痛みを緩和する作用もあるとされ、疼痛に対して処方することもできます。

 弱点としては、Sつまりセロトニンの機能低下を改善する効果が薄いということです。ですから不安、緊張の緩和がSSRIほどは望めません。不安緊張が強いうつ状態、社交不安障害、強迫性障害、パニック障害にはあまり向かない薬です。

 

【リフレックス】

 これはセロトニンとノルアドレナリンの機能低下を改善させる作用があります。ですからSNRIと同じ目的です。しかし、作用メカニズムがかなり違っています。またこの薬の特徴は睡眠促進作用、食欲増進作用があります。ですからおもな副作用は眠気、体重増加ですが、不眠傾向や食欲不振がある人には逆に望ましい効果にもなります。通常は眠気も食欲もしばらくすれば落ち着いてきます。しかし、眠気の程度が非常に強いことがあり、あらかじめご説明していても患者さんがびっくりされることがあります。金曜日など次の日に仕事がないときから内服スタートすることをすすめることもあります。たいへん強い薬という印象を持たれる方もいらっしゃいますが、実はそうでもありません。この眠気はアレルギーの薬や風邪薬と同じような眠気ですので、アレルギーの薬で眠気が来る人はこの薬でも眠気が来る可能性が高めです。通常は、睡眠障害や食欲低下が目立つようなうつ状態、うつ病でこの内服薬を選択します。この薬は睡眠薬や抗不安薬などを併用せずに、単剤が目指せるというのも大きなメリットです。

 この薬は眠気が強くなることもあるものの安全性が高いのも特徴のひとつです。そして何と言っても高齢者に用いることができる点が重要です。この薬は安全性が高いうえに、高齢者では素晴らしい効果を示すことも期待ができるのです。また年齢が高い方が眠気の副作用が来にくいです。

 

【イフェクサー】

 これは日本で使える抗うつ薬の中で一番新しいです。SNRIです。特徴は、S(セロトニン)もN(ノルアドレナリン)も両方とも高い効果を発揮するということです。同じSNRIではあるサインバルタはS(セロトニン)が弱かったので、その点イフェクサーの方が優れていると言えます。しかしサインバルタは少量でN(ノルアドレナリン)の効果が発揮できたのに対して、イフェクサーでは中等量以上でようやくN(ノルアドレナリン)の効果がみられるのはデメリットです。N(ノルアドレナリン)の効果を期待するならば、増量しなければなりません。またイフェクサーは少量でもS(セロトニン)の効果が十分になるのも特徴的です。そしてイフェクサーの最大のメリットは、十分量を内服すれば、抗うつ薬のなかで一番効果が高いということです。最強の抗うつ薬と言えばわかりやすいかもしれません(ただし三環形抗うつ薬を除く)。ただし、増量しなければイフェクサー本来の効果は発揮できません。使い方としては、少量でS(セロトニン)の効果を期待し、効果不十分なら増量してN(ノルアドレナリン)の効果を目指すというのも良いでしょう。うつ病の治療で問題になるのは、寛解に至らないということ、つまり症状が完全に消失せずに残ることですので、しっかりとした効果を優先したいというときにはイフェクサーを選択するのがよいでしょう。難治性のうつ病の場合には一度は必ず試みたい抗うつ薬です。安全性は他の抗うつ薬と同等であると考えられます。

 

【それではどの抗うつ薬を選択するのか】

 抗うつ薬の選択は、それぞれの抗うつ薬の特性と症状の特徴を踏まえて、検討して、内服薬を選択します。それに患者様の希望も含めて勘案します。そもそも内服を希望しない方もいます。そして内服したときに体に合うか合わないか、これが一番大切です。これは理屈で割り切れるものではありません。ですから、あらかじめはっきり決まった選択というのはありません。