社会不安障害(SAD)について

社会不安障害(SAD)とは

 当院の特徴の一つとしては、社会不安障害で支障を来している方が受診する割合が高いことです。

 社会不安障害とは人前で極度の緊張が生じる症状が発生することです。大勢の人の前で話すとき、あるいは、数人の前では話すとき、プレゼンテーションの時、会議の時、説明会の時など、などで極めて強い緊張が生じます。そして動悸や震えを伴うことが多いです。また予期不安といって本番の前から不安な思いで悶々と苦しみます。このようなことから、苦手な場面を回避する傾向が生じやすく、社会生活の範囲を狭めてしまいがちになります。一つ一つが小さな回避であっても積み重なれば大きなデメリットにもなります。また、職業選択や昇進など人生の重要なポイントで回避することもあります。重度になると、通常の対人関係を取り結ぶのにも支障をきたすことがあります。

 かつては、こういった症状が性格的なものだと片づけられてきました。しかし、単なる心構えでは改善せず、たいてい数年あるいは数十年続くため、苦痛の度合いや社会生活への支障の度合いによっては、やはり治療すべきであり、また近年かなり治療ができるようになってきました。

 これによって人生におけるデメリットが生じないようにしたいところです。


内服による治療

 抗不安薬で不安・緊張をかなりとれるばあいがあります。また、それ以上に重要な内服薬として、震えや動悸を止める内服薬(インデラル、プロプラノロール、アロチノロールなど)があります。これらの内服薬は、人前で話す前にスポットで内服すると効果的です。

 社会生活に支障をきたしている度合いが大きい場合や、より根本的に直したい場合には、SSRI(抗うつ薬の一種)の内服を検討します。効果が現れるのに数ヶ月かかりますが、より踏み込んだ治療的効果も期待できます。SSRIは計画的内服が必要です。


注意:インデラル、プロプラノロール、アロチノロールは、喘息、低血圧症、起立性低血圧症のばあいには内服ができません。

心理療法

 強い不安から回避する傾向が生じていることも多いため、だんだんに慣らしていく行動療法的な方法が有効です。根気がいりますが、ステップバイステップでやっていくと自信もついてきて意外に不安が軽減しやすいものです。しかし、内服薬なしで克服しようと思っても、苦手場面がやってくるたびに激しく緊張するというネガティブな経験を繰り返して、トラウマ(心の傷)が蓄積するばかりで、自信も失う一方です。こうして10年でも20年でも症状が続いてしまうのがこの症状の特徴でもあります。一般にお薬を内服しながら少しずつ苦手場面を乗り切るのがよいでしょう。内服をして症状を緩和し、苦手場面を回避するデメリットを避けます。また、あえて人前で話す機会をつくるなどして段階的に苦手場面を克服することもよいでしょう。前向きに人前で話ができるようになることが有意義であり、これが目的です。人前で話す機会が多ければ多いほど慣れる機会も増えるということですが、機会が少ないとやはり改善には時間もかかります。

 また、古くからある日本独自の森田療法的な考え方も大切です。この考え方によれば症状にあまりこだわらずに、あるがままで、目的を達成することを重視し、なおかつリラックスした生活姿勢が大切です。