月経前症候群(PSM)と月経前不快気分障害(PMDD)は、生理が始まる前に心身が不調をこたして、日常生活・社会生活に支障を来したり、苦痛感が強く、対人関係にも悪影響を及ぼしたりするものです。生理が始まる約10日前くらいから症状が始まり、生理が開始すると軽減し整理が終了するときまでには消失するのが特徴です。おもに身体症状が現れる場合は月経前症候群(PSM)と呼ばれ、おもに精神的な症状として現れる場合は月経前不快気分障害(PMDD)と呼ばれます。
社会生活や大切な人との関係に大きな影響が出るようでしたら、受診をお勧めいたします。
月経前不快気分障害PMDDは英語でPremenstrual dysphoric disorderといいます。
月経前症候群PMSはPremenstrual Syndromeといいます。月経前緊張症とも訳したりもします。我が国では一般にPMDDというよりはPMSと呼ぶ方が多いです。PMSは心身両面の不調ですが、PMDDの場合は、とくに精神的な不調についてです。ですから微妙に違っています。
アメリカ精神医学会のDSMが2013年に改訂されてDSM-5となりましたが、PMDDは、抑うつ障害群の中に分類されました。PMDDは、うつ状態が性周期に関連して現れるものであり、身体的な基盤に基づいた精神的な不調であり、もはや当たり前のことだなどと軽く見れません。
精神的な症状としては、気分の沈み、興味関心の低下、意欲の低下、疲れやすい、イライラする、攻撃的になるなどです。軽度のものから、重度のものまであります。軽度のものは、さほど支障を来さないので、とくに病名がつくわけではありません。しかし、支障の度合いや苦痛の程度によってはこの病名がつくこともあります。精神的な症状はうつ病の症状と似ているところがあります。そのため、アメリカ精神医学会では、月経前不快症候群(PMDD)が、「抑うつ障害群」にも分類されるようになりました。実際には、この疾患の症状は各人各様でもあり、気分の沈みというより急激に人格が変わったように、会社や家庭や恋人に攻撃的になって、人間関係が損なわれる場合もあります。こういった場合に、性格やストレスや悩みが関わっていても、それよりは生理前の体調の変化こそが最大の原因だと考えて対処することが必要です。
アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)では、PMDDの特徴をよくまとめていて参考になります。その要点を下に書いておきます。
【主要な症状】
1.突然悲しくなる、涙がでてくる、拒絶されることにすごく敏感になる。
2.イライラして、怒り、攻撃的になり、近しい人との摩擦が増える。
3.気分の沈み、絶望感、自己否定的な発想が強くなる。
4.不安、緊張、気持ちの高ぶりが強くなる。
【次のような症状を伴うことがあります】
1.興味関心の低下(仕事、学校、友人、趣味などについて)。
2.集中困難。
3.体がだるい、疲れやすい、気力がでない。
4.過食。とくに炭水化物や脂肪の豊富な食品をすごく欲しくなる。
5.過眠。逆に不眠もあります。
6.症状を制御できずに圧倒される感じがする。
7.関節、筋肉、乳房などの痛み。「膨らんでいる」感覚。体重増加。
※睡眠サイクルの乱れ、過労、栄養の偏りなど身体のバランスがうまくいっていないときには、これらを整えることが大切です。
※ ストレスが背景にある場合もあります。それについてはカウンセリングをうけるのも一法です。
※ 精神症状であっても、基本的には体調の変化が原因ですので内服薬も有効です。体調を整える漢方の効果も期待されます。何種類かの有効性を期待できる漢方があります。また婦人科ではピルを処方することがあります。つまり生理の周期を整えたり、場合によっては止めれば、これらの症状もなくなるであろうという考え方です。しかし、たとえ生理を止めても、月経前症候群・月経前不快気分障害だけが治らない場合もあります。
こころの症状が強い場合にはSSRI(選択的セロトニン阻害薬)という一種の抗うつ薬を処方することがあります。それによって、うつ状態、興味関心の低下、意欲の低下、疲れやすい、イライラする、攻撃的になる、といった諸症状が大きく改善することが少なくありません。婦人科ではSSRIの処方は扱わないのが通常ですので、処方にはSSRIについて専門的に熟知している心療内科・精神科への受診が必要です。