ブロムシュテット指揮N響『 マーラー交響曲第9番』を聴いて

 

 数年前に楽友会ホールにてブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」を聴いて、衝撃的なほどに感銘を受けました。説得力と表現力と芳醇さ、そして壮大な歴史的なビジョン、壮大な音響の拡がり。本当に素晴らしかった。そのときブロムシュテットはもう既に90歳は超えていましたが、キビキビと闊達でした。

 

 今回の演奏では、ブロムシュテットはもう95歳です。コンサートマスターに支えられつつ、どうにかこうにか歩けるかどうかです。自力では歩けないようです。ブロムシュテットは若いときから繰り返し来日していましたが、今回が最後なのではないでしょうか。

 

 今日のマーラーの9番も本当に素晴らしかった。特に第3,第4楽章が凄かった。指揮者のなかには最晩年になると一層深みを増すタイプがいる、と言われていいますが、ブロムシュテットはまさしくその一人だと思います。

 

 マーラーの最後の交響曲であり、ベートーベンの最後の交響曲である9番という象徴的な番号が冠せられることになり、またマーラーが心臓病で自分の死をはっきりと意識した実質的な遺作でもあり、楽譜の最後の小節は「死に絶えるように」と書き込まれていました。心底から感銘しました。本当に聴けてよかったです。

 

 マーラーの交響曲は、音楽として機能することと機能しないことの両方が重要だとおもいます。音楽としての機能不全を活用して取り込んでいます。第1,第2楽章は音楽的な機能の逡巡の度合いがとても高く、そしてとりわけ第3楽章には、音楽として機能することと機能しないことの両方が絡まり合うことで、破格で驚くほどの効果が発揮されました。そして、第4楽章としては音楽としての良好な調性の機能が発揮されつつ「終わり」に向かっていきます。いわゆるクラシック音楽が終焉に向かう時期にもあって、最期の輝きです。

 

 ブロムシュテットの心ある精彩が感じられる演奏でした。これは「優勝だ」とおもいました。